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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)3931号 判決

原告 馬淵清次郎

右代理人 土田吉清

被告 三浦しづ

右代理人 前田常好

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

昭和二七年七月一〇日被告と訴外中島重夫間に原告主張の家屋建築工事の請負契約が成立したこと(但しその内容を措く)は当事者間に争がない。而して証人中島重夫、同宮永儀一の各証言と被告本人尋問の結果を合せ考えると、右請負契約は原告訴訟代理人弁護士土田吉晴が被告の委任を受けて建築業者なる中島重夫と交渉して成立を見たものであり、請負契約証書の作成も第一回金三〇〇、〇〇〇円の支払も同弁護士事務所において同弁護士関与の下に行われたのであるばかりでなく、そもそも被告が右工事賃金に当てることにしていた金員は、同弁護士がさきに被告の委任を受け、その代理人として訴外株式会社三和銀行より受領したる家屋立退料金一、六六〇、〇〇〇円の内同弁護士において保管にかかる金一、〇〇〇、〇〇〇円であつて、右建築工事については被告は同弁護士と協議し、且つ建築業者の選択及びその交渉をすべて同弁護士に委託したことが認められる。右認定を妨ぐるに足る証拠はない。然らば本訴は、土田弁護士がさきに被告の委任を受け請負契約締結に関与しながら、その後同契約の相手方より同契約に基く債権の譲渡を受けたと主張する原告の委任を受け、その代理人として被告を相手取り同契約に基く債権につき請求を為すものであることが明らかである。而して債権の譲受人は単に譲渡人の権利を承継するに過ぎないのであり、もとより該債権の同一性には何等の変更を来さないのであるから、本件は弁護士法第二五条第一号にいわゆる相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した場合に該当するものと解するを相当とする。従つて同弁護士は本件については原告の代理人として職務を行つてはならないのに拘らず、これを敢てしたものというべきであるから、同弁護士による本件訴の提起及び爾後の訴訟遂行はすべて無効というの外はない。

そうしてみると、原告の本件訴は爾余の点につき判断を為すまでもなく、不適法なること明らかであるから却下を免れない。よつて民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 畑健次)

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